[要約]
水稲塩害田において、土壌ECの高い圃場では後作麦類の出芽はやや遅延し、遅延の程度は大麦より小麦で大きい。播種時における土壌中のNaCl濃度の許容水準は、大麦で
0.5%、小麦で 0.3%と推定される。
筑後分場・普通作物研究室
[連絡先] 0944-32-1029
生産環境研究所・化学部・作物栄養研究室
[連絡先] 092-924-2939
[部会名] 農産
[専門] 栽培
[対象] 麦類
[分類] 指導
[背景・ねらい]
平成 6年夏は観測史上記録的な高温少雨で、農業用水の不足が深刻であった。一部の地域では塩分濃度の高い潅漑水を供給したため、水稲は塩害を受けた。これらの地域は水稲−麦の二毛作地帯であり、塩害田における後作麦類への影響が懸念された。そこで、塩害を受けた水田における後作麦類の出芽と初期生育について明らかにする。
[成果の内容・特徴]
@水稲塩害土壌において、播種時の土壌ECが高い圃場では、麦類の出芽はやや遅れるが、EC
900μS程度以下の土壌では出芽率の低下はみられない。出芽遅延の程度は大麦より小麦で大きい。さらに、出芽の遅れに伴って、初期の草丈の伸長はやや劣る(表
1)。なお、現地圃場の麦の収量及び品質には影響はみられなかった。
A播種後10日の出芽率が90%以上であることを前提とすると、播種時における土壌中のNa
Cl濃度の許容水準は大麦で 0.5%(ECで約1500μS)、小麦で 0.3%(ECで約1000μS)と推定される(図
1、 2)。
BNaCl濃度と土壌のECには高い正の相関が認められ、土壌のECからNaCl濃度の推定が可能である(図
2)。また、NaCl濃度の増加に伴って、pHは低下する(表 2)。
[成果の活用面・留意点]
@「福岡県農業災害対策資料」に登載する。
A水稲の塩害田における後作麦類の栽培にあたっての参考とする。
B土壌のECが1000μS以上では、標準の播種日より 5日程度早播きとし、1500μS以上では播種量を
1割程度増量する必要がある。
C土壌ECの高い圃場ではpHが低いので炭カル施用によりpHの矯正に留意する。
[具体的デ−タ]
表1 水稲塩害土壌のpH,ECと麦類の出芽及び初期生育
注@水稲の被害程度は葉身及び穂の褐変程度を無、軽、中、甚、激甚の5段階で評価した。
A供試土壌は、大川市大野島地区の現地圃場から平成6年9月29日に採取した。
BNaC1濃度は、EC測定濾液中のCl ̄イオン当量から換算した。
図1 土壌へのNaC1添加量と麦類の出芽率の推移(筑後分場内の細粒灰色低地土を供試)
図2 土壌へのNaC1添加量とECの関係
注)供試土壌は図1に同じ。
表2 NaC1添加量とpH(H.O)の関係
注)供試土壌は図1に同じ。
[その他]
研究課題名:筑後南部地域における水田の高度利用
予算 区分:経常
研究 期間:平成6年度(平成6年)
研究担当者:福島裕助、兼子明、中村晋一郎
発表論文等:日作九支会 第62号