酸性雨処理が土壌の理化学性並びに農作物の生育に及ぼす影響と改善対策
 
[要約]
 脱塩水及び人工酸性雨処理により、土壌の塩基類が溶脱され、塩基飽和度は大きく低
下する。その対策として、石灰質資材を加え酸度矯正を図るとともに、堆肥の施用を行
えば、農作物(チンゲンサイ)の収量・品質が安定する。
 
生産環境研究所・化学部・公鉱害研究室  連絡先:092−924−2937
部会名:生産環境 専門:土壌 対象:葉茎菜類
 
[背景・ねらい]
 福岡県下の雨水の年平均pHは北九州市で4.4(1990年)、大牟田市で4.6
(1990年)を記録しており、一部、森林の衰退等が報告されている(県環境白書)。
酸性雨による農作物の被害については現時点では顕在化していないが、農作物の生育へ
の影響が懸念されている。そこで、人工酸性雨処理が土壌の理化学性並びに作物の生育
に及ぼす影響を調査するとともに、改善対策を明らかにする。
 
[成果の内容・特徴]
 1 脱塩水及び人工酸性雨(脱塩水に硫酸を加えてpH4,pH3に調整した水)を
年間2000o処理することにより塩基類が溶出し、土壌の塩基飽和度は著しく低下す
る(図1)。
 2 人工酸性雨処理により塩基飽和度が低下した土壌の改善対策として、炭酸苦土石
灰を施用して酸度を矯正するとともに牛ふん堆肥を施用すると、塩基飽和度が増加し、
土壌容積重は低下して、土壌の化学性、物理性ともに改善される。その結果、チンゲン
サイの根の伸長が促進され(表1)、収量、品質も安定する(図2)。しかし、炭酸苦土
石灰により酸度のみを矯正してもダイコン(平成5〜7年)及びチンゲンサイ(平成8
年)の収量は極めて少なく(データ略)、改善効果は期待できない。
 
[成果の活用面・留意点]
 1 現在、県内においてもpH4〜pH5の酸性雨が確認されているが、実際の降雨
は表面流失等により、そのまま土壌に浸透することはないので、本報告のような塩基類
の溶脱はないと考えられる。
 2 農作物の作付にあたっては、土壌の酸度矯正、堆肥投入等肥培管理の基本技術励
行に努める。
 
[具体的データ]
 
[その他]
研究課題名:酸性雨の農作物への影響
予算区分:経常
研究期間:平成9年度(平成3〜9年)
研究担当者:平野稔彦、水田一枝、角重和浩、北原郁文
発表論文等:平成3年〜9年度生産環境研究所化学部秋冬作試験成績書