雌だけを産する大量増殖に適したマメハモグリバエ幼虫寄生蜂を発見

[要約]マメハモグリバエの幼虫寄生蜂ハモグリミドリヒメコバチNeochrysocharis formosaでは交尾雌が雌卵と雄卵を、未交尾雌は雄卵のみを産下するが、野外個体群から未交尾でも雌卵のみを産下できる産雌性単為生殖系統を発見した。


生産環境研究所・病害虫部・野菜花き病害虫研究室[連絡先]092−924−2938
[部会名]園芸 [専門]作物虫害 [対象]果菜類 [分類]研究


[背景・ねらい]

一般に寄生蜂では未交尾の雌は雄卵(未受精卵)しか産下できず、また交尾雌では雄卵と雌卵が1:1の割合で産下される。さらに、大量増殖を目的に雌蜂を集団飼育し、産卵させた場合には、雌蜂間の相互作用により雄卵の割合が高くなり、性比(雌率)の低下がおこることが知られている。しかし、マメハモグリバエの生物的防除や総合的な害虫管理を目的とした天敵の大量生産ではこのような性決定様式は天敵の生産効率の低下につながり、放飼した施設内での増殖率の低下をも引き起こすことになる。そこで、土着天敵の性決定様式を明らかにし、大量増殖に適した系統を選抜する。

[成果の内答・特徴]

1 交尾をせずに、雌だけを産することのできる幼虫寄生蜂(ハモグリミドリヒメコバチ)を発見した。福岡県内のトマト施設で採集した被害葉から羽化した系統では性比(雌比)は低いが(表1)、鹿児島県で得られた系統では性比が極めて高い(表2の無処理)。
2 雌を多く産する鹿児島産の系統に抗生物質テトラサイクリンを餌の蜂蜜に混ぜて投与したところ、性比が低くなったことから、この系統では卵巣内の共生微生物(ボルバキア)により性比が調節されている可能性が高い(表1)。
3 産雌性単為生殖系統では集団飼育の場合でも二性比の低下は認められない(表3)。

[成果の活用面・留意点]

1 本系統を用い、大量増殖技術を検討する。
2 産雌性単為生殖と従来の産雄性単為生殖系統が地域個体群の中に混在し、両系統間での交雑では細胞質不和合による妊性が低下する可能性も指摘されているため、系統の維持には十分な注意が必要である。
3 性比調節に関わるボルバキアは抗生物質や高温に弱いため、ボルバキアに感染した産雌性単為生殖系統の維持には注意が必要である。

[具体的データ]

[その他]
研究課題名:寄生性土着天敵の繁殖特性の解明
予算区分:国庫(地域重要)
研究期間:平成9年度(平成9〜11年)
研究担当者:大野和朗、嶽本弘之
発表論文等:なし