イチゴの定植前マルチングと土壌水分管理による基肥窒素節減


[要約] イチゴの夏期低温処理による促成栽培において、定植前マルチングを行い、土壌水分をpF2.0〜1.5程度で管理すると、施肥窒素の溶脱が抑制され、基肥窒素量を大幅に節減できる。


生産環境研究所・化学部・作物栄養研究室 [連絡先]092−924−2939
[部会名]園芸 [専門]肥料 [対象]果菜類 [分類]指導

〔背景・ねらい]

イチゴの促成栽培では、マルチングは出蕾期頃行われているが、マルチングをするまでの間に降雨によって肥料成分が流亡し、施肥効率の低下と環境への負荷が懸念される。そこで、定植前マルチングを前提とした基肥の減肥がイチゴの生育・収量に及ぼす影響を明らかにするとともに、土壌中養水分の動態を解明し、躍境負荷の少ない施肥管理技術を確立する。

[成果の内容・特徴]
@定植前マルチングを行い土壌水分をpF2.0〜1.5程度で管理する条件では、慣行基肥量の50〜75%減肥しても慣行と同等の収量が得られる(表1)。
A黒色ポリフィルムを定植前にマルチングをすると、9月上旬から10月上旬の地温(深さ12・5p)は無処理に比べ2〜3℃上昇するが、9月上旬・中旬の地温が27〜28℃では、頂果房、腋果房の出蕾に影響はみられない(表2)。
B土壌中の無機態窒素濃度は、定植時には慣行が最も高いが、定植後急激に低下し、慣行のマルチング時期(10月上旬)には定植前マルチを行い75%減肥する場合より低下する。定植前マルチングでは生育に伴って土壌の無機態窒素濃度は緩やかに低下する(表3)。
C慣行マルチングでは、定植後からマルチングまでの期間、平年降水量相当のかん水を行った場合、全窒素は9.7g/m2(畝面積)溶出し、そのほとんどが硝酸態窒素である(表4)。
[成果の活用面・留意点]
@イチゴの栽培技術指針に登載し、省力低コストで環境保全型の生産技術として活用する。A定植前マルチングでは、定植後活着するまでは植え穴からのかん水を重点的に行う。
B畝(深さ12.5p)の土壌水分がpF1.5以下になると肥料成分の溶脱が起こるので、pF1.5以下にならないように、少量多かん水とする。
C完熟堆肥を3〜5t/10a施用して作土の地力を高めるとともに、追肥は土壌の無機態窒素濃に応じて施用する。
[具体的データ]


〔その他]
研究課題名:マルチ栽培におけるイチゴの養分吸収特性と土婁中における養分の動態
予算区分:経常
研究期間:平成8年度(平成6〜8年度)
研究担当者:井上恵子、兼子明、末信真二、荒木雅登
発表論文等:平成6〜8年度化学部春夏作試験成績書