福岡農総試研報16(1997)

畑地における有機物の長期連用効果
第2報 作物収量と土壌物理性

黒柳直彦・藤田 彰・小田原孝治・兼子 明・渡邉敏朗

(生産環境研究所)


 地力の低い砂壌土の畑地におけるおがくず入り牛ふん堆肥の長期連用及び深耕が,土壌の物理性並びに作物収量に及ぼす影響を調査した結果,次の知見を得た。
1.おがくず入り牛ふん堆肥を夏冬作毎に2t/10a施用すると,土壌の仮比重が低下し,易効性有効水分が増加し,保水性が高くなった。その結果,大豆及び小麦の収量が  増加した。
2.堆肥施用時に深耕を加えると次層の孔隙率が増加するとともに,土壌貫入抵抗値が小さくなり,根群の伸長を阻害しない硬度の土層が拡大した。
3.深耕による増収効果は,大豆より小麦で高かった。

〔キーワード:おがくず入り牛ふん堆肥,有機物,土壌の物理性,深耕〕


     Effect of Long-term Application of Organic Matters on Upland Field. (2) Yield of Upland Crop and Physical Properties of soil. KUROYANAGI Naohiko, Akira KANEKO, Toshiro WATANABE, Akira FUJITA and Koji ODAHARA. (Fukuoka Agricultural Research Center, Chikushino, Fukuoka 818 Japan) Bull. Fukuoka Agric. Res. Cent. 16:63-66(1997)
     We examined the effect of long-term application of sawdust-cattle manure to a sterile upland sandy loam and its influence on crop yield and physical properties of the land. The results were as follows; (1) The bulk density of the soil decreased with long-term application of the manure. The available moisture (pF1.5〜2.7) in topsoil during soybean cultivation increased with semiannual applications of the manure at 2t/10a. Consequently the yields of wheat and soybeans increased. (2) The porosity of the subsoil increased and penetration resistance of the subsoil decreased with deep tillage, which enabled the roots to expand more deeply in the subsoil due to improved soil hardness. (3) The effectiveness of the deep tillage on increasing yield in wheat was higher than in soybeans.

[ keywords ; sawdust-cattle manure, organic matter, physical properties of soil,deep tillage ]


緒  言

 一般に有機物を施用すると土壌の化学性が改善され,肥沃度が向上する1,4,5,6,7)。また,土壌の物理性についても土壌が膨軟化し,保水性,透水・通気性のバランスが改善される6)。有機物の施用効果は特に腐植水準の低い土壌で大きい7)が,その効果は投入される有機物や土壌の種類,気象条件,微生物活動や土地利用形態などの様々な要因から影響を受け,一様ではない。そこで,地力の低い砂壌土の畑地に対する有機物の長期連用効果を明らかにするため,福岡県農業総合試験場内ほ場において,おがくず入り牛ふん堆肥の連年施用試験を行った。
 前報7)では,おがくず入り牛ふん堆肥の連年施用が作物収量と土壌化学性に及ぼす影響について報告した。本報では,おがくず入り牛ふん堆肥の連年施用及び深耕が土壌物理性の変化並びに作物収量に及ぼす影響について報告する。


試 験 方 法

1 土壌条件
 試験場所は福岡県農業総合試験場の畑ほ場(花こう岩質黄色土の上に厚さ30cmの畑地土壌を客入した中粗粒黄色土造成相)で,土壌条件は下層土に礫層が存在するせき薄な砂壌土である。 

2 試験区の構成
 第1表に試験区の構成を示した。試験区は無窒素区および化学肥料区,牛ふん1t区,牛ふん2t区,総合改善区の5区とし,試験区の規模は1区20m2で2反復とした。
 牛ふん1t区,牛ふん2t区および総合改善区ではおがくず入り牛ふん堆肥を施用し,無窒素区および化学肥料区では施用しなかった。おがくず入り牛ふん堆肥は夏作・冬作作付前の年2回施用とし,牛ふん1t区ではそれぞれ1t/10a(年間施用量2t/10a),牛ふん2t区および総合改善区ではそれぞれ2t/10a(年間施用量4t/10a)を施用した。総合改善区では年2回のおがくず入り牛ふん堆肥施用前に深さ30cmの深耕を行った。
 化学肥料は第1表に示したように,無窒素区では窒素を無施用とし,りん酸,加里は標準量を施用した。その他の区では窒素,りん酸,加里ともに標準量を施用した。 


3 供試作物及び施肥量
 供試作物は主として夏作では大豆,冬作では小麦としたが,1985及び1988年夏作にはカンショ,1985年冬作にはバレイショ,1984及び1987年冬作には大麦を栽培した。1983年大豆作から1995年小麦作まで,計24作の栽培を行った。
 化学肥料は硫安,ようりん,硫酸加里を使用した。投入したおがくず入り牛ふん堆肥の現物当たり成分量は,平均値でT−N0.50%,P2O50.47%,K2O0.92%,水分74%であった。総合改善区の深耕は堆肥施用の直前〜23日前に行い(1988年夏作カンショでは行わず,1989年の小麦では堆肥施用後に行った),おがくず入り牛ふん堆肥を施用(1983年及び1984年の大豆作では無施用)した後,基肥を施用し,耕耘後,播種もしくは定植を行った。栽培管理,施肥量は福岡県栽培技術指針に従った。
 窒素の施肥効果が小さい大豆では1987年以降,すべての区で窒素肥料は施用してなかった。このため,無窒素区と化学肥料区は夏作の処理内容が全く同一となった。
 詳細については前報を参照されたい。 

4 調査項目
 土壌物理性の調査は大豆及び小麦ともに収穫直後の土壌について行った作土(0〜15cm)及び次層(15〜30cm)について試料採土管(容積100cc)により採取し,容積重,三相分布,pF-水分特性及び透水係数を調査した。1994年の大豆収穫跡に貫入式土壌硬度計(DIK−5520型)を用いて土壌貫入抵抗値を測定した。
 また,多雨年であった1993年及び少雨年であった1994年は,大豆生育期間中の土壌含水比の推移を調査した。



結  果

1 各処理の収量
 大豆(10作)及び小麦(9作)の積算収量を第2表に示した。化学肥料区の値を100とする指数で示すと,大豆では無窒素区99,牛ふん1t区102,牛ふん2t区107,総合改善区106となり,化学肥料区に比べて無窒素区及び牛ふん1t区はほぼ同収量となり,牛ふん2t区及び総合改善区で高かった。同様に小麦では無窒素区30,牛ふん1t区102,牛ふん2t区109,総合改善区115となり,化学肥料区に比べて無窒素区は極端に劣り,牛ふん1t区はほぼ同程度,牛ふん2t区及び総合改善区で高くなった。品質については大豆及び小麦ともに各年次間及び各処理間の差は小さかった。


2 土壌物理性の変化
 第3表に試験開始前と試験開始後12年を経過した1994年の大豆跡地及び1995年の小麦跡地の作土の物理性の調査結果を示した。試験開始前の仮比重は1.34で,固相率も51.9%と大きく,易効性有効水分量は体積水分率で作土10.5%と保水性が不良であった。
 大豆跡地では,仮比重は牛ふん2t区,牛ふん1t区,化学肥料区,総合改善区,無窒素区の順に小さくなる傾向が認められた。固相率は仮比重と同様の傾向を示したが,液相率は牛ふん2t区で大きく,化学肥料区で小さくなった。易効性有効水分は試験開始時に比較して,すべての区で増加し,特に牛ふん2t区で大きくなり,総合改善区で小さかった。第1図に極端な多雨年となった1993年の,第2図に極端な少雨年となった1994年の大豆生育期間中の化学肥料区及び牛ふん1t区の作土の含水比の推移を示した。牛ふん1t区は多雨年では化学肥料区より含水比が低く推移し,少雨年では化学肥料区より含水比が高く推移した。第3図に大豆跡地土壌の貫入抵抗値を示した。総合改善区では,深さ30cmまで10kgf/cm2(山中式硬度計によるち密度20mm)以下と小さく,深耕の効果が顕著であった。その他の区では深さ15cmから急に値が大きくなり,深さ18cm付近では地力増進基本指針の改善目標値13.6kgf/cm2(ち密度22mm)以上となり,根群の伸長を阻害する硬度となった。
 小麦跡地では,牛ふん2t区,牛ふん1t区,総合改善区,化学肥料区,無窒素区の順に仮比重が小さくなる傾向が認められた。固相率は牛ふん2t区で小さくなった。易効性有効水分量は大豆跡地に比べ小さかったが,牛ふん堆肥の施用により増加する傾向にあった。
 第4表に試験開始前と試験開始後12年を経過した1995年の小麦跡地の次層の物理性の調査結果を示した。次層では仮比重は総合改善区では約16%小さくなったが,その他の区ではほとんど変化がなかった。同様に,孔隙率は総合改善区で著しく増加したが,他の区ではほとんど変化がなかった。易効性有効水分についても仮比重と同じ傾向で試験開始時に比較して,総合改善区だけがやや大きくなった。次層の透水係数は試験開始時の10−5オ−ダ−に比較して,すべての区で10−4オ−ダ−となって透水性が向上し,特に総合改善区は10−3オ−ダ−となり透水性の向上が顕著であった。








考  察

 前報4)では,大豆10作,小麦9作の積算収量と,土壌中の全炭素含量,全窒素含量および陽イオン交換容量が,おがくず入り牛ふん堆肥の連年施用により増加することが認められた。その増加程度は夏・冬作毎に10a当たり1t施用するよりも2t施用する方が大きかった。さらに小地力増進基本指針の改善目標値麦では,堆肥施用時に深耕を行うことで,土壌化学性の改善効果が多少劣るが増収効果がより高くなることを報告した。
 土壌の物理性については試験開始時に比べ,おがくず入り牛ふん堆肥2t/10aを施用した場合は,仮比重が小さくなり,特に大豆跡地で易効性有効水分量の増加が著しかった。一般に有機物の施用により,土壌構造が膨軟になり,保水性・通気性・排水性が改善されるが,これは土壌の団粒構造が発達するためである。本試験では土壌団粒量の測定は行っていないが,多雨年と少雨年の化学肥料区と牛ふん1t区の大豆生育期間中の含水比を比較した結果,牛ふん1t区の含水比は化学肥料区に比べて,湿潤年は低く,乾燥年は高く推移したこと,また,大豆跡地が小麦跡地に比べて,作土の易効性有効水分量が大きかったことから,牛ふん堆肥を施用した大豆跡地では毛管孔隙量が増加し,土壌の団粒構造が発達したものと推察された。作物のうちマメ科植物では根からの分泌物質が多く,直接土壌粒子を結びつけて団粒化を促進させる2)が,その効果が有機物施用を伴うことでより顕著になったと考えられた。これに対して,小麦跡地の易効性有効水分量が大豆跡地よりも低下したのは,大豆収穫跡で増加した団粒が小麦作付時の耕起によって破壊され,さらに,小麦の作付が団粒を多少なりとも破壊する方向 に働く2)ためと推測された。
 根群域の拡大をはかるための深耕30cmとおがくず入り牛ふん堆肥2t/10a施用を組み合わせた総合改善区では,下層のせき薄な土壌が混入するため,作土の化学性の諸数値は牛ふん1t区とほぼ同程度となったことは前報4)で報告した。総合改善区の作土の仮比重は牛ふん1t区よりも大きくなり,大豆では作土の易効性有効水分量が小さくなった。土壌化学性の場合と同様に,深耕を行うとおがくず入り牛ふん堆肥の施用による物理性の改善効果が小さくなった。しかし,次層の貫入抵抗値が減少し,地力増進基本指針の改善目標値13.6kgf/cm2(ち密度22mm)以下の根群の伸長を阻害しない硬度の土層は大幅に拡大した。
 大豆では総合改善区の積算収量が牛ふん2t区と同程度であることから,深耕による増収効果は期待できない。しかし,耐湿性の弱い小麦では総合改善区の積算収量が牛ふん2t区より多くなることから,深耕による有効土層の拡大や次層の透水性の改善が増収に寄与するところが大きいと考えられる。すなわち,栽培する作物によって,深耕による増収効果の発現が異なることが推察された。
 以上のことから,おがくず入り牛ふん堆肥を夏冬作毎に牛ふん堆肥2t/ 10aを施用することにより,土壌の孔隙率や易効性有効水分が増加し,物理性が改善される。その結果,栽培される作物の収量が増加する。また,根群の伸長を阻害しない硬度の土層は,堆肥施用時に深耕を行うと次層の破砕に伴い拡大するが,作土中に次層のせき薄な土壌が混入するため,土壌物理性の改善効果はむしろ低下する。しかし,栽培する作物の種類によっては作土の物理性に関する要因よりも,深耕による根群の伸長を阻害しない硬度の土層の拡大そのものが増収に大きく影響することが明らかとなった。
 今後は,栽培される作物毎に最適な根群環境に誘導するための,有機物の施用及び深耕方法について検討していく必要がある。


引 用 文 献

1)地力問題研究会(1985)地力増進基本指針.地力増進法解説、地球社:pp54〜70
2)福岡県農業総合試験場生産環境研究所化学部(1983〜 1993)土壌環境対策事業成績書.
3)福岡県農政部(1995)地力保全測定診断の手引き−土壌硬度(ち密度及び慣入抵抗:pp35〜39
4)川口桂三郎(1978)土壌の構造と孔隙および膨張と収縮 (団粒の生成と破壊).土壌学概論,養賢堂:135〜136
5)川原祥司,V根圏における養分の動態 主要耕地における土壌溶液の動態 ハウス土壌.農業技術体系・土壌施肥編1:pp59〜69
6)木村真人ほか,土壌と根圏U「土壌の働きと根圏環境(根と土壌の相互関係)」農業技術体系・土壌施肥編1:71〜95
7)黒柳直彦・兼子明・渡邉敏朗・藤田彰・小田原孝治 (1995)畑地における有機物の長期連用効果 第1報 作物収量と土壌化学性.福岡農総試研報15:64〜68
8)三好 洋,(1972)根群発達の良好な土壌条件から見た畑地の有効土層の検討 畑土壌生産力分級のための指標の再検討と千葉県畑土壌の生産力分級(第1報).土肥誌43:92-97
9)大橋恭一・岡本将宏・西川吉和・西沢良一・中田均・勝木依正(1982)露地畑におけるおがくず入り牛ふん堆肥の連用効果 第1報 10作跡地土壌の理化学性および野菜  の収量・養分吸収量.滋賀農試研報24:87〜97.
10)上沢正志(1991)化学肥料・有機物の連用が土壌・作物収量に与える影響の全国的解析.農業技術46(9): 393〜397